意匠・商標登録に特有の用語を解りやすく説明します。京都弁理士 矢野特許事務所

意匠・商標の用語

■趣旨

知的財産に関する用語は、初めて知的財産権を取得しようとする方にとっては、専門的で判りにくいものです。
少しでも理解を深めて頂いて有効な知的財産権を取得して頂くために、知的財産用語の説明をまとめた用語集を作成しました。
このページでは、意匠・商標に特有の用語の説明を掲載しています。

■用語の項目

部分意匠

物品の部分の形状、模様もしくは色彩又はこれらの結合を言います。
例えば胸元に大きくまとまった柄が描かれたTシャツという物品に対して、その柄の部分です。このように物品の部分にかかる意匠も他の要件を充足すれば意匠登録の対象となります。

組物

同時に使用される二以上の物品であって経済産業省令で定めるものを言います。
意匠法では、原則として物品の区分により意匠ごとに意匠登録出願しなければなりません(一意匠一出願)。
しかし、ディナーセットのように複数の物品が全体として統一があって一組として取引の目的となるときは、これを一意匠として出願することを認めるのが望ましいことから、例外を設けたものです(意匠法第8条)。

本意匠/関連意匠

我が国意匠法は、先願主義(「知的財産権共通の用語」のページ参照)を採用しており、同一類似の意匠については最先の出願人のみが意匠登録を受けることができます。
しかし、この原則を貫くと互いに類似するバリエーションの意匠を的確に保護することができません。
そこで、同一出願人の類似する意匠のうちから選択した一の意匠を「本意匠」とし、それに類似する意匠を「関連意匠」として、本意匠の公報発行日前に関連意匠を出願したときに限り意匠登録を受けることができるようにしたのです(意匠法第10条第1項)。
本意匠及びその関連意匠の意匠権は、分離して移転することができません。また、本意匠の意匠権が存続期間満了以外の理由で消滅したときも、残る関連意匠同士を分離して移転することはできません(意匠法第22条)。

秘密意匠

意匠権の設定登録の日から3年以内の期間を指定して、その期間秘密にすることを請求された意匠を言います(意匠法第14条)。
未だ実施化には至らないため他の業者に意匠を知られたくないが先願の地位を確保するために出願した意匠権者を保護するための制度です。
秘密にすることの請求は、出願時又は初年度登録料納付時に行うことができます。
秘密意匠であっても権利侵害であるとして警告を受けた利害関係人等は、秘密意匠を閲覧することができます。
尚、秘密意匠の場合は、一定事項を記載し且つ特許庁長官の証明を受けた書面を提示して警告をした後でなければ差止請求権を行使することができません(意匠法第37条第3項)。

意匠の要旨

その意匠の属する分野における通常の知識に基づいて、願書の記載及び添付図面等から直接的に導き出される具体的な意匠の内容を言います。
意匠の要旨を変更する補正をしたときは、却下されます(意匠法第17条の2)。

慣用商標

同種類の商品又は役務について同業者間で普通に使われるに至った結果、自己の商品又は役務と他人のそれとを識別することができなくなった(識別力を失った)商標を言います。
商品「清酒」について「正宗」、役務「宿泊施設の提供」について「観光ホテル」などが挙げられます。
慣用商標は登録が認められません(商標法第3条第1項第2号)。

記述的商標

商品の産地、販売地、品質、効能又は役務の提供の場所等を普通の態様で表示する標章のみからなる商標を言います。
このような標章は、何人も使用をする必要があり、一私人に独占を認めるのは妥当でないことから、登録が認められません(商標法第3条第1項第3号)。

標準文字

商標登録出願に際して、文字のみからなる商標の構成を指定するために用いることのできる書体であって特許庁長官があらかじめ定めたものを言います。
標準文字のみによって商標登録を受けようとするときは、その旨を願書に記載することにより、出願商標をイメージ化する手間を省くことができます。

手続補完書

特許庁長官の補完命令に応じて出願手続の補完をする書面を言います。手続補正書とは異なります。
商標登録出願に不可欠な基本的事項(出願人の氏名、商標の記載等)が揃っていない出願は、補完命令が出されます。そして、これに応じて補完されたとき、手続補完書を提出した日が出願日として認定されます(商標法第5条4項)。補正の場合は、手続補正書が提出されても現実の出願日が依然として有効であるのと異なります。

商品及び役務の区分

商品及び役務(サービス)を種類ごとに分類した一つ一つの集まりのことを言います。
商標とは、自己の商品または役務(サービス)を他人のものと識別するために、商品または役務(サービス)について使用するマークです。従って、商標登録出願の際には、その商標を使用する商品または役務(サービス)を願書に記載しなければなりません。商品やサービスは法律によって種類に応じて45の区分に分類されていて、その区分をも願書に記載することが定められています。そして、商標登録出願の費用は、その区分数によって異なります。

団体商標

事業者を構成員に有する団体(公益法人その他の社団、事業協同組合、特別法により設立された組合等)がその構成員に共通に使用させる商標であって、商品又は役務の出所が当該団体の構成員であることを明らかにするものを言います。
その他の社団とは、商工会議所、商工会、NPO法人等を指します。
事業協同組合とは、中小企業等協同組合法に規定する事業協同組合を指します。
特別法により設立された組合とは、例えば農業協同組合を指します。
このような商標は、当該団体自体が使用しなくても構成員が使用するときは登録を受けることができます(商標法第7条)。
但し、使用について団体の規則があるときは、その定めに従わなければなりません。

地域団体商標

地域の名称と商品又はサービスの名称等からなる商標(地名入り商標)であって、事業協同組合等や、商工会、商工会議所、特定非営利活動法人等がその構成員に使用させた結果、周知となったものを言います。
地名入り商標は登録されないのが原則ですが、地域団体商標は、周知であることを示す証明書を査定時までに提出することにより、登録を受けることができます(商標法第7条の2)。

商標の要旨

願書に記載した指定商品・役務及び商標登録を受けようとする商標のことを言います。
これを変更する補正は、却下されます(商標法第16条の2)。
但し、指定商品・役務の範囲の減縮、誤記の訂正等は要旨変更ではありません。

禁止権

指定商品についての登録商標の使用と類似関係にある範囲で他人が商標を使用するのを排除する権利を言います。
当該範囲での他人の使用は商標権侵害とみなされます(商標法第37条第1号)。
但し、商標権者が当該範囲で積極的に自ら使用をすることが保証されているわけではありません。

登録異議の申立

商標登録出願が所定の拒絶理由を有するにもかかわらず、審査の過誤等により商標登録された場合において、その登録処分の取り消しを求める手続をいいます(商標法第43条の2)。
[異議申立てできる者]
何人でもできます。従って、親戚や友人などの替え玉を用いてすることができます。
[申立ての期間]
対象となる登録商標が掲載された商標掲載公報の発行の日から2ヶ月以内です。
ただし、異議申立ての理由及び証拠の表示については、2ヶ月と30日を経過するまで補正が認められます。
[異議申立ての効果]
その商標登録を取り消すべき旨の決定(取消決定)が確定したときは、その商標権は初めから存在しなかったものとみなされます。
[審理]
原則として書面審理により、3人または5人の審判官の合議体により審理されます。
商標権者等には、取消決定の前に取消理由の通知を受けて意見書を提出する機会が与えられます。
商標権者等は、取消決定に対して不服があるときは東京高等裁判所に提訴することができます。

防護標章

登録商標と同一の文字、図形、記号等からなり、商標登録にかかる指定商品・役務と非類似の商品・役務の範囲での他人の使用を排除するために登録が認められる標章を言います。
指定商品・役務と非類似の商品・役務の範囲まで出所の混同を生じるおそれがある著名商標に限られます。

不使用による取消審判

登録商標が、指定商品・役務について3年以上日本国内において商標権者等により使用されていないとき、その使用されていない指定商品・役務についての商標登録を取り消すために請求する審判です(商標法第50条第1項)。
この審判は、誰でも請求可能ですが、多くは自分の商標登録出願が、先行する他人の登録商標と同一類似であるとして審査段階で拒絶された場合に、その他人の登録商標を取り消して拒絶理由を解消するために請求されます。我が国商標法は登録主義を採用しており、出願中は不使用であっても商標登録されることから、その弊害を是正するために設けられています。
取消審決が確定したときは、商標権は、審判請求の登録の日に消滅したものとみなされます(商標法第54条第2項)。この点、他の取消審判で取消審決が確定したときに審決確定後に消滅する(同第1項)のと異なりますし、また、無効審判で無効審決が確定したときに商標権が原則として初めから存在しなかったものとみなされる(同第46条の2)のとも異なります。

商標権者の不正使用による取消審判

商標権の禁止権の範囲で商標権者が故意に誤認混同を生ずる商標使用をしたとき、商標登録を取り消すために請求する審判です(商標法第51条第1項)。
この審判は、商標権者に対する制裁のためであって、誰でも請求可能です。
取消審決が確定したときは、商標権は、その後に消滅します(商標法第54条第1項)。この点、無効審判で無効審決が確定したときに商標権が原則として初めから存在しなかったものとみなされる(同第46条の2)のと異なります。

使用権者の不正使用による取消審判

商標権の効力範囲及び禁止権の範囲で専用使用権者又は通常使用権者が誤認混同を生ずる商標使用をしたとき、商標登録を取り消すために請求する審判です(商標法第53条第1項)。
この審判は、使用許諾制度の濫用による弊害を防止するためであって、誰でも請求可能です。この規定により、商標権者は使用権者に対して監督責任を負うことになります。
取消審決が確定したときは、商標権は、その後に消滅します(商標法第54条第1項)。この点、無効審判で無効審決が確定したときに商標権が原則として初めから存在しなかったものとみなされる(同第46条の2)のと異なります。