1%のシェアでも周知商標 平成28(行ケ)10003

平成28年6月23日判決言渡
平成28年(行ケ)第10003号 商標登録取消決定取消請求事件

1.事件の概要

原告は、「桜桃苺」の文字といちごの線図とを結合した商標について、「いちご」を指定商品として商標登録を受けた商標権者です。
この商標登録に対して、本件商標はJA徳島市の組合員らが生産販売するいちごを表示する「ももいちご」(引用商標1)と類似するとして、同組合員Aが商標法4条1項10号(他人の周知商標と同一類似)に基づいて異議申立をしたところ、特許庁は商標登録を取り消す旨の決定をしました。
本件は、この決定の取消を求めて原告が提訴したものです。争点はいくつかありますが、商標の周知性を立証する側に参考になることから、周知性判断の部分について掲載することにしました。

2.裁判所の判断

原告は、引用商標1の露出の減少を次のように主張しました。

引用商標1が使用される申立人ら商品1は,これを独占的に扱う大阪中央卸売市場の大阪中央青果株式会社(以下「大阪中央青果」という。)の出荷量ベースで,平成19年に数量約86トン,金額2億3709万3637円と金額ベースでの最高額を記録した後,・・・平成22年には数量約47トン,金額1億1897万5121円というように,出荷量,金額ともに急激な落ち込みを示している(甲22)。また,商標登録異議申立書(甲72)における申立人の主張によると,平成24年12月から平成25年3月までの販売実績では数量38トン,金額1億500万円とのことであり,申立人ら商品1の出荷量は減少の一途をたどっている。実際,申立人ら商品1は,連作障害の影響により年々小粒化が進み,市場での価値が低下していったことから,ブランド力の維持が困難となり,生産終了が決定されている(甲92)。
他方,高級いちごとして知られる「あまおう」の出荷量は年間1万2727トン(甲93),2012年から試験販売が開始されたばかりの「スカイベリー」であっても年間500トン(甲94)であり,申立人ら商品1の出荷量は,高級いちごの中でも圧倒的に少なく,需要者等が申立人ら商品1に接する機会も極めて少ないといえる。

これに対して、裁判所は、申立人ら商品1がテレビCM、ラジオCM、映画館CM放映、電車内広告、駅のポスターなどで宣伝し、また、新聞・雑誌・テレビ・インターネットなどにおいて引用商標1とともに多数紹介されていることを認め、引用商標1の少なくとも関西地域及び徳島県における周知性を認めたうえで、

申立人ら商品1は,上記のような希少性が一つの理由となって話題を呼び、前記(1)ウのとおり,テレビ番組,雑誌,新聞記事,インターネット上の情報記事等で繰り返し紹介されてきたものであり,その結果,引用商標1が周知性を獲得するに至ったのであるから,申立人ら商品1の出荷量が他の高級いちごに比べて少ない点は,引用商標1の周知性を否定する事情となるものではない。

として、原告の主張を退けました。

3.当職のコメント

妥当な判決であると思量します。
商標法には、「需要者の間に広く認識されている商標」すなわち”周知商標”に関する規定が少なからず存在します。この”周知”の程度につき、明確に示されているものは無く、3条2項の審査基準に立証方法及び判断が定性的に記載されているだけであることから、しばしば争いが生じています。
本件は、「あまおう」の出荷量が1万トンを超えているのに対して、引用商標1を使用していたJA徳島市組合員らの出荷量がピーク時でも86トンと1%に満たない市場シェアであっても引用商標1の周知性が認められたものであり、周知商標を立証する側にとって参考になる判決と言えます。また、「希少性」が逆に周知の根拠となったことも注目に値します

Comments are closed