特許:良くない意見書の例

[冗長な意見書]

多くの特許事務所の料金体系が従量制(ページ数に応じて手数料を加算する方式)を採用しています。また、ページ数が多い方がしっかり書けていると評価するクライアントが多く見受けられます。更に、ワープロやOCRの機能により、長文であっても簡単に意見書の中にコピー&貼り付けが可能という時代です。
これらの事情から、意見書の序文で拒絶理由通知書を丸写ししたり、本願発明と引用文献との相違を述べるのに請求範囲の記載と引用文献の記載を丸写ししたり、同じ事を何度も繰り返して述べたりする意見書作成者がいます。

しかし、拒絶理由通知書は審査官が書いたものですし、引用文献は審査官が引用したものですし、本願請求範囲も審査官の手元に有りますので、忘れていてもそれぞれ原文を見てもらえば十分です。
また、同じ事がくどくど繰り返して書かれていると、嫌気がさします。

むしろ請求範囲の記載と引用文献の記載を簡潔にした方が、本願発明と引用文献との相違がよくわかることが少なくありません。また、引用文献を入念に読んで、その行間から論理的に把握できる事項を十分に説明することが大切です。

 [根拠の無い意見書]

(1)請求範囲に基づいていない主張
出願発明の実施例は引用文献に記載の先行技術と著しく異なるけれど、広い権利範囲を取得したいがために、先行技術と同一又はそれに近い技術を包含するように請求範囲が書かれていることがあります。
こういう場合、審査官は請求範囲に記載の発明が先行技術と同一又は類似しているから拒絶理由を通知しているのであって、実施例が先行技術と類似しているという理由で拒絶している訳ではありません。
にも関わらず、実施例と先行技術との相違を一所懸命述べたところで拒絶理由は解消しません。

(2)独立請求項に基づいていない主張
一般に審査官は、新規性違反や進歩性違反で拒絶するときは、独立請求項が新規性や進歩性を欠いているという理由で拒絶します。独立請求項とそれに従属する請求項を同時に拒絶することもありますが、独立請求項について拒絶理由があることに変わりはありません。
にも関わらず、従属請求項と先行技術との相違だけを一所懸命述べたところで拒絶理由は解消しません。

(3)実験データに基づいていない主張
化学分野の発明、特に新規組成物、新規化合物、数値限定発明の場合、出願発明に属する試料の実験例を比較試料のそれとともに明細書に記述することにより、出願発明の優位性を示します。実験データが無ければ、何故に又はどのようにその組成物、化合物、数値範囲が従来に比べて優れているのか判らず、審査官は納得しません。

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