商標権の更新失念による損失 H29(行ケ)10222.jtd

平成30年10月10日判決言渡
平成29年(行ケ)第10222号 審決取消請求事件

1.事件の概要

原告は、、昭和59年から現在に至るまで、「ハイパット」なる商標(引用商標)を付してキルティング製の梱包養生カバーなどを製造販売する会社で、被告は、その子会社が平成17年頃から原告商品の販売代理店でした。
原告は、前記商標について第22類「布製包装用容器」を指定して商標登録していましたが、その更新登録の申請手続きを怠っていたため平成21年に商標権が消滅してしまいました。
一方、被告は、原告の前記商標権消滅後の平成24年に「ハイパット」と「HIPAT」を上下二段書きにした商標(本件商標)の登録をしました。
本件は、原告がその登録の無効審判請求をしたところ、不成立となった審決の取り消しを求めて提訴したものです。無効審判の請求理由としては、原告商標が周知であって本件商標がそれと類似すること(商標法4条1項10号)、本件商標が原告商標との関係で出所混同を生ずるおそれがあること(同15号)、及び本件商標が不正の目的で使用するものであること(同19号)が挙げられています。
結果は、原告の請求が棄却されるという、原告に気の毒な判決となりました。尚、原告は、引用商標と同一の商標について第17類「合成樹脂製梱包用保護緩衝剤」などを指定して平成27年に商標登録しています。

2.裁判所の判断

判決文の中から、商標法4条1項10号該当性と同19号該当性について参考になると思われる部分を引用します。引用個所以外は筆者が要約したものです。

原告は、自己の商標「ハイパット」の周知性を立証するために、日刊運輸新聞(平成16年3月3日号)が引っ越し運送を行っている各社に対し反復資材の使用などについてアンケート調査を実施したところ、反復資材としての「梱包用ハイパット」の使用率が80%を超える結果であったことを主張しました。
これに対して、裁判所は

しかしながら,上記アンケート調査におけるアンケートの対象企業数,回答数,回答方法等のアンケート結果の信頼性を基礎づける事実は明らかではない。また,仮に原告が主張するように平成16年3月当時における反復資材としての「梱包用ハイパット」の使用率が80%を超えており,「梱包用ハイパット」が原告の使用商品を指すものとして,引越業者に認識されていたとしても,約7年後の本件商標の登録出願時においても同様の認識が当然に維持されていたということにはならない。

として、原告の主張を退けました。

原告は、被告が引用商標の商標権の消滅を知り、これを奇貨として、引用商標に表彰される価値、業務上の信用を自己に帰属させるという「不正の目的」をもって、本件商標の登録出願を行った旨、主張しました。
これに対して、裁判所は

・・・被告が本件商標の商標権を有していることを持ち出して交渉を優位に進めようとした事実は認められないこと,これまで被告は,原告に対して,本件商標の商標権を行使して,ライセンス料の請求や引用商標の使用の差止請求などを行っていないことを併せ考慮すると,被告による本件商標の登録出願は,原告旧登録商標の商標権が消滅したことを奇貨として,引用商標に表象される価値,業務上の信用を自己に帰属させる目的をもって行ったものということはできないのみならず,原告と被告グループ間の取引上の信義則に反する目的をもって行ったものと認めることもできない。

として、原告の主張を退けました。

3.考察

以上のように、30年以上も「ハイパット」を使用し続け、その間に一度は商標登録もしていた原告にとって、更新を失念していたがために、かつては代理店であった被告に類似商標にかかる商標権を取得されるという厳しい結果となりました。商標管理の重要性が浮き彫りにされる事件であったと言えます。
また、自己の商標が周知であることを示す証拠としてアンケート結果を挙げるときは、アンケート対象者数、回答数、回答方法などの調査条件をできる限り詳しく付けるべきこと、アンケートは本件出願時から数年以内に行ったものであるべきことなどが教訓となります。

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