結合商標の類否「オルガノサイエンス」平成26(行ケ)10268

2015年8月6日判決
原告:オルガノ株式会社
被告:オルガノサイエンス株式会社

1.事件の概要

界面活性剤、化学剤を指定商品とする先願登録商標「オルガノ」(引用商標)を有する原告が、指定商品として化学剤を含む被告の後願登録商標「オルガノサイエンス」(本件商標)につき、商標登録無効審判を請求したところ、審判請求不成立(登録維持)と審決されました。本件は、この審決の取り消しを求めて原告が提起したものです。
争点は、①本件商標と引用商標との類似性(商標法4条1項11号)の有無、及び②本件商標が原告の業務に係る商品・役務と混同を生じるおそれ(同15号)の有無ですが、①についてのみ判断されました。

2.裁判所の判断(抜粋且つ複数中点「・・」は当職による)

(1)引用商標及び使用商標の周知著名性について

原告は,・・水処理装置事業と,水処理薬品・・等の製造、販売といった薬品事業を主に行っており,本件商標の登録出願時には資本金が約82億円に達し,該期の売上高は735億9200万円(そのうち、・・薬品事業が154億2000万円)に及ぶ。

昭和39年からにわたり,新聞の題字広告として「オルガノ」の文字からなる商標が、「総合水処理・・・」等の語句とともに定期的に掲載されており、・・・。

以上より,引用商標及び使用商標は,本件商標登録出願時には,原告及び被告の事業ないし商品・役務を示すものとして相当程度周知となっており,原告の事業は水処理関連事業であるが,これには薬品事業が伴うものと認識されていたものと認められる。

(2)取消事由1(商標法4条1項11号該当性についての判断の誤り)について

本件商標「オルガノサイエンス」は,「オルガノ」と「サイエンス」の結合商標と認められるところ,その全体は,9字9音とやや冗長であること,後半の「サイエンス」が科学を意味する言葉として一般に広く知られていること,前半の「オルガノ」は,「有機の」を意味する「organo」の読みを表記したものと解されるものの,本件商標登録出願時の広辞苑に掲載されていないなど,「サイエンス」に比べれば一般にその意味合いが十分浸透しているものとは考えられないことが認められ,さらに,上述のような引用商標の周知性からすれば,本件商標のうち「オルガノ」部分は,その指定商品及び指定役務の取引者,需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ,他方,「サイエンス」は,一般に知られている「科学」を意味し,指定商品である化合物,薬剤類との関係で,出所識別標識としての称呼,観念が生じにくいと認められる(最(二)判平成20年9月8日,裁判集民事228号561頁参照。)。したがって,本件商標については,前半の「オルガノ」部分がその要部と解すべきである

本件商標の要部「オルガノ」と,引用商標とは,外観において類似し,称呼を共通にし,一般には十分浸透しているとはいえないものの,いずれも「有機の」という観念を有しているものと認められる。したがって,両者は,類似していると認められる。

本件商標の指定商品と,引用商標の指定商品とは,いずれも「化学剤」を含んでいる点で共通している。

したがって,原告の主張する取消事由1は理由があるから,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求には理由がある。

3.当職のコメント

原告の薬品事業は、売上高が水処理装置事業の1/4程度で相対的には低いですが、154億もあり、原告の資本金も82億円に達していること、引用商標及び使用商標が長年にわたって各種新聞や雑誌に記事、広告として定期的に掲載されていることなどからすれば、引用商標及び使用商標の周知著名性は妥当と思量します。

一方、裁判所は、本件商標を「オルガノ」と「サイエンス」の結合商標と認めました。そして、結合商標においては、原則として分離観察や要部観察が許されないところ、例外的として、①その部分が取引者、需要者に対し、商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与える場合や、②それ以外の部分から出所識別標識としての証拠、観念が生じない場合に分離観察や要部観察がなされます(前記最高裁判決)。今回の判決は、これに従ったものです。
また、「『サイエンス』は,一般に知られている『科学』を意味し」は、その通りです。

しかし、「『サイエンス』は,・・・指定商品である化合物,薬剤類との関係で,出所識別標識としての称呼,観念が生じにくい」は、納得がいきません。化合物の英訳は「chemical compound」、「compound」、「compounder」などであり、薬剤の英訳は「medicine」、「drug」などですから、「ケミカルコンパウンド」、「コンパウンド」や「メディスン」、「ドラッグ」が出所識別標識としての称呼、観念が生じにくいというのなら解ります。「サイエンス」にしろ「科学」にしろ、化合物、薬剤との関係で、出所識別標識としての称呼、観念が生じうるのではないでしょうか。

例えば、商標登録されている例として、

商標登録番号  商標  指定商品
 3070629  purescience  薬剤
 5205773  アロエ科学  アロエを配合した入浴剤 ほか
 5213192  サイエンスウォーター  化学品 ほか
 5633635  洗濯科学  洗濯用剤 ほか
 5731505  サイエンス プラス  空気消臭剤 ほか

があります。

これらの例は、いずれも化学品や薬剤との関係で、明らかに「サイエンス」あるいは「科学」に出所識別標識としての称呼・観念が生じると判断されたものと認められます。
判決は不当と思量します。

ちなみに裁判所は、引用商標の周知著名性を認定していますが、商標法4条1項11号を適用するにあたり、引用商標の周知著名性は必要条件ではありません。

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