「ADMIRAL」混同惹起による商標権取消 平成26(行ケ)10170

Ⅰ.事件の概要

登録商標「ADMIRAL」の商標権が、スイスの法人から商品「靴」については原告に分割譲渡された後、残る商品「サンダル」について被告・商標権者に移転されました。原告は同商標をスニーカーに付して累積55万足販売し、雑誌・新聞等にて紹介されていました。一方、国内最大手の靴製造業者チヨダが被告から使用許諾されて、同商標をクロックサンダルに付して販売しました。
そこで、原告は、同使用権者商標の使用が原告商品と混同を生ずるとして、商標法53条1項に基づき、商標登録の取消審判請求をしたところ、特許庁が「審判請求は成り立たない」との審決をしました。
本件は、原告が審決の取り消しを求めて提訴したもので、知財高裁は原告の請求を認めました。

Ⅱ.裁判所の判断(抜粋)

 1 認定事実
(省略)

2 「他人の業務に係る商品・・と混同を生ずるものをしたとき」に該当するか
・・・他人の商標との商標自体の同一性又は類似性及び指定商品・役務自体の類似性により通常生じうる混同の範囲を超えて、・・・不正競争の目的で・・・混同を生じさせる行為と評価されるような態様により、・・・具体的な混同のおそれを生じさせるものをしたことを要する・・。
・・使用権者商標の使用態様は、単に原告使用商標と同一又は類似する・・・商品の種類が類似すること自体により通常混同が生じうるという範囲を超えて、・・取引者及び需要者に、使用権者商品も、・・スニーカーを販売する者(原告)と同一の出所に係るものであるとの認識を生じさせる具体的な混同のおそれを生じさせたものといえる。
以上によれば、・・・「他人の業務に係る商品・・と混同を生ずるものをしたとき」に該当するというべきである。
審決は、・・引用商標及び本件商標は、いずれも・・国際的ブランドに係る商標であり、・・取引者及び需要者は、1914年英国発祥のブランドに係るものとして認識することはあっても、それを超えて、原告又は被告の業務に係る商品であると認識することはないから、出所混同のおそれはない、と判断したものである。
しかし、・・英国発祥のブランドに係るものとして・・認識されているとしても、そのことは、これらの商標が有するブランドイメージについての認識を意味するにすぎないというべきであり、・・・「出所」についての認識と同視することはできないし、・・商標権者を出所として観念できないということもできない。
むしろ、法53条1項が適用されるためには、取引者及び需要者は、「他人の業務」に係る商標が特定の権利者に帰属していることまで認識している必要はないところ、・・・我が国において適法に権利を有する者の業務に係る商品であると認識するものと理解するのが合理的である。そして、・・・我が国において保護されるべき出所は、同商標に係る商標権を適法に日本で有する者である。したがって、・・・「他人の業務に係る商品」・・・主体(他人)は、当該商標についての商標権者であるというべきである。
そうすると、日本国内においては、履物(サンダル等を除く。)については、原告が、本件ブランドを発展させ、・・商標権者となっているのであるから、・・「他人」とは、原告であるというべきであり・・・。

3 被告は、法53条1項ただし書きの「当該商標権者がその事実を知らなかった場合において、相当な注意をしていた」といえるか
・・被告は、・・・弁理士のアドバイスによって、靴とサンダルの区別がつくように、チヨダの商品の下げ札には「販売元(株)チヨダ」との記載を、・・箱には「Admiral SANDALS」との記載を、取扱説明書には「www.chiyodagrp.co.jp」との記載をさせていたから、相応の注意をしていたなどと主張する。
しかし、・・・取引者及び需要者が通常有する認識及び注意力を前提とすれば、被告の主張する措置をもって、使用権者商品についての出所が、原告使用商標によって表示される原告商品とは異なる出所に係る商品であることを、需要者に対して明示するものとしては足りないというべきであり、相当の注意をしていたものとは認められない。

Ⅲ.小職のコメント

本件は、原告及び被告の双方が商標権者であるところが興味深いです。平成8年法改正により、類似関係にある商品・役務に係る商標権の分割移転が認められるようになったことから、本件のように同一商標について「靴」に使用する商標権と「サンダル」に使用する商標権とが互いに異なる業者に帰属する事態が発生しました。

法53条1項は、前記法改正以前から存在しており、法51条1項(商標権者の類似範囲での使用による出所混同)と異なり、「不正競争の目的」を要件として明記しておらず、単に「・・他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」と規定されているだけです。

しかし、本件では裁判所が「不正競争の目的」を要件としたことは、前記「他人」の側に立つ場合に留意すべきでしょう。
 また、前記「相当の注意」は、商標権者に対して使用権者への監督義務を課したものですが、裁判所が、その具体的措置として商品等に商号を付したり、商品のカテゴリーを記載するだけでは不十分であると判断した点も、今後ライセンス契約する際の参考になるでしょう。

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