明細書の書き方

(現行の特許法では特許請求の範囲は明細書とは別の書類であると規定されています。ここでは明細書の書き方について説明し、請求の範囲については別記事に掲載します。
 明細書の書き方については、少なからず書籍が市販されており、インターネット上でも複数のサイトで公開されていますし、ここでは私がどのように書いているかを提示します。)

【背景技術】
出願発明が属する分野の基礎技術などの一般的な説明を簡潔に記載し、従来技術のうちで最も近いもの(複数でもよい)を特許文献や一般技術文献を例にして説明します。
拒絶されることを恐れて近い従来技術を記載せずに、遠い技術だけを挙げて説明したりすると、審査段階で近い技術が引用されたときに意見書の論理展開が難しくなりますので、お勧めしていません。
発明者から提供される起案書の中には、発明完成に至るまでの苦労が長々と従来技術として書かれていることがありますが、苦労の過程は後述の実施形態や実施例で反映されるように工夫します。そのような過程も依然として新規性を有していて且つ発明の実施可能要件に役立つことがあるからです。
また、あまり多数の文献を挙げてこの欄を長く記載することもお勧めしていません。かえって焦点がぼけてしまうし、明細書作成費用や外国出願の際の翻訳料も高くなるなど、出願人に不利なことが多いからです。

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】
上記最近の従来技術の問題点のうち、出願発明、特に独立請求項に記載の発明によって解決されるものを列挙します。
従属請求項に記載の発明によって解決されるものだけを書くと、審査段階で独立請求項をそのような従属請求項に限定するように要請されてしまうことがあるので、注意を要します。

【課題を解決するための手段】
通常は、独立請求項を文章化して記載しますが、長い請求項の場合は読みやすいように区切って記載します。
辞典や専門書に挙げられていない用語を使わざるを得なかったときは、ここで定義づけを行います。
そして、発明の作用(機械や装置の場合は、各要素や部材の働きとその結果としての全体の動き)を説明します。但し、実施形態レベルの作用よりも上位概念的に記載します。

【発明の効果】
実施形態や実施例特有の効果ではなく、独立請求項に記載の上位概念発明の効果を記載します。ここで、実施形態や実施例レベルの効果を強調すると、権利範囲が狭く解釈されることがあるので、注意を要します。

【発明の実施の形態】
ノウハウとして開示したくない情報は別として可能な限り詳しく丁寧に書きます。また、図面は補助であってあくまで明細書が権利書だから、明細書だけを読んで理解できるように書くことに努めています。
大きい部分や全体の構成を先に説明し、次いで小さい部分や細部を作用効果とともに説明します。
複数の実施形態を記載するときは、各形態ごとに特有の作用効果を記載します。一つの形態が公知と認定された場合に、他の形態まで均等と認められるのを避けるためです。
英語に翻訳しにくい表現は外国出願時に不利となりますので、できるだけ避けています。イロハ、JIS、コの字型、八の字型等は好ましくありません。

【実施例】
実施形態と実施例の両方を記載するときは、この欄には主として実験例を記載します。化学分野には必須の欄です。

<追記>

他人が書いた明細書を公開公報で読むと、【課題を解決するための手段】の欄に「請求項1に記載の発明は・・・を特徴とする。請求項2に記載の発明は、・・・・。請求項3に記載の発明は、・・・。」のように請求項番号を含めた文章を見ることがあります。
しかし、この書き方ですと、請求項1の拒絶理由を回避するために、請求項2の技術的事項を請求項1に組み込む補正をする場合、明細書中の「請求項・・に記載の」というところを全部補正しなければなりません。従って、補正の個所が多くなって煩雑になりますし、中間手続においても書類のページ数によって弁理士手数料が加算される場合、出願人の経済的負担が増すことになります。
一方、【課題を解決するための手段】の欄を「この発明は・・・を特徴とする。好ましくは、・・・・。好ましくは、・・・。」のように書けば、請求項2の技術的事項を請求項1に組み込む補正をする場合でも、明細書の補正は一つ目の「好ましくは、」の文言を削除するだけで足り、明細書の変更を最小限に止めることができます。
以上


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