知的財産権の裁判における和解

特許出願などの審査においては、特許にすべきか否かが審査されるわけですから、当然ながら出願人と特許庁との間で和解というものはありません。従って、その後の拒絶査定不服審判(審査官の査定に不服の場合に請求する)や、審決(審判の決定)に対する訴えにおいても同様です。まあ、審判なんかでは審判官の方から補正案(たいていは出願人の請求よりも少し範囲を狭めたり明確にした内容)が提示され、出願人が応じるということはありますが。

一方、特許権侵害差し止め請求や損害賠償請求の裁判においては和解という手続きがあります。日本では侵害訴訟の33%が和解、53%が判決(残りは取り下げ等)によって終結しています(平成25年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書)。ちなみに訴訟件数が日本の10倍をはるかに超える米国では約90%が和解です(同)。弁護士費用を含む訴訟費用も桁違いに高額であること、ディスカバリー(証拠開示手続き)の段階で判決の予想を立てやすいことなどに起因しているようです。

また、少なくとも日本では侵害被疑者に対して権利者の企業規模が小さいほど和解の割合が高いです。米国での訴訟費用に比べれば低額であるにしても、勝訴するまでは相手から1円も受け取れないばかりか、弁護士費用などの支出が増すばかりの状況では、個人事業主や小規模企業の場合は財力がもたないからでしょう。

和解には、特許権者が侵害被疑者に金銭を支払うやり方もあります。それによって侵害被疑者に実施を中断してもらい、特許権者が権利存続中の市場独占を確保するのが狙いです。

裁判の勝敗の予想だけでなく、損害算定のために利益率を相手方に開示するリスク、双方の財力の差などを考慮したうえで、和解と判決のどちらを選択する決めた方が良いでしょう。

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