「洗浄剤組成物」一事不再理効の否定 平成26(行ケ)10235

平成27年8月26日判決言渡
平成26年(行ケ)第10235号 審決取消請求事件

原 告:アクゾノーベル株式会社(本件特許に対する無効審判請求人)
被 告:昭和電工株式会社(本件特許を所有する特許権者)

1.事件の概要

本件特許に対しては3回の無効審判が請求されました。
一回目は原告と異なる第三者から請求され、最終的に審判請求は成り立たない(特許維持)とする審決(「第1審決」)が確定しました。
二回目は原告から請求され、原告は、第一に甲3公報を主引用例として、第二に甲4公報を主引用例として、これらに甲2公報その他の周知技術を組み合わせて、いずれも進歩性が無いと主張しましたが、請求不成立の審決がされ(「第2審決」)、知財高裁においても同審決を維持する判決がされ(「第2判決」)、第2審決が確定しました。
原告は、再度無効審判を請求したところ、特許庁が以下の通り「一事不再理効に反して請求されたもの」として却下する審決をしました(「本件審決」)。本件は、これを不服として原告が提訴したもので、原告の主張が認められました。

H26(GK)10235

2.本件審決の理由(抜粋)

本件審判における主引用発明は,甲3公報及び甲4公報に記載された「OS1」なる金属イオン封鎖剤組成物に係る発明であり,第2審判における主引用発明と実質上の差異がない,周知技術は,甲1文献及び甲2公報に記載されている技術事項である「洗浄剤の分野において,(アミノカルボン酸の誘導体から構成される)コンプレクサン型キレート剤を水酸化ナトリウムとともに使用すること」であり,原告の無効理由は,本件発明1は,上記周知技術の存在の下,主引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである,と理解される,・・・

・・・本件審判において新たに提出された甲1文献は,第2審決が審理対象とした特定の周知技術の存在か,その技術の背景(技術的課題)を証明するに過ぎず,新たな事実関係を証明する価値を有する証拠とは評価することができない,よって,本件審判において原告が主張する無効理由は,第2審判において,原告が主張した無効理由と実質的に同一であり,同一の事実及び同一の証拠に基づくものであるから,本件審判は,第2審決の一事不再理効に反して請求されたものである

3.裁判所の判断(抜粋)

被告は,原告が,第2審判では,主引用例として甲3公報及び甲4公報に基づく主張から出発し,水酸化ナトリウムを添加する周知技術(甲2公報等)の主張をしていたのに対し,本件審判では,水酸化ナトリウムを添加する周知技術を記載した甲1文献から出発し,甲3公報及び甲4公報(第2審判における主引用例)に基づく主張をしているに過ぎず,このように主張の順序を入れ替えたところで,各文献の記載する内容や,特許法29条2項違反の無効理由の主張における実質的な意味づけが変わるものではない,と主張する。

しかし,前記のとおり,本件審判の請求における無効理由(特許法29条2項)は,第2審判における主引用発明と実質的に異なる主引用発明に基づくものであり,主引用発明が実質的に異なれば,本件発明との一致点と相違点の認定がそもそも異なってくるのであるから,本件審判における無効理由(特許法29条2項)について,単に,第2審決の無効理由における主引用例と周知技術の主張の順序を入れ替えたにすぎないとか,実質的な無効理由は変わらないとの被告の上記主張は採用することができない。

被告は,第2判決において,・・・洗浄剤組成物が上記3成分を主成分とし,それによって,洗浄効果を高める効果がある点では,当業者が予測し得ない効果であると認められるとして,当業者が容易に想到し得ないと判断されたのに対し,本件審判において新たに提示された甲1文献にも,上記の予測し得ない効果は記載されておらず,本件審判請求の無効理由(特許法29条2項)は,解決済みの問題が何ら変更される余地のない証拠を追加し,紛争の蒸し返しを図るものであるといえる旨主張する。

しかしながら,第2判決において認定された本件発明の予測し得ない効果が甲1文献に記載されていなかったとしても,このことは本件審判における無効理由(特許法29条2項)が,第2審判における無効理由と「同一の事実及び同一の証拠」によるものであることの根拠となるものではない。・・・

以上によれば,第2審判と本件審判では,特許法29条2項に係る無効理由における主引用発明が異なることが認められるから,「同一の事実及び同一の証拠」に基づく請求であるとはいえない。

4.当職のコメント

甲1文献は、原告も本件審判請求書に記載する通り、学生レベルの参考書であり、1988年当時の技術常識を示すものです。このような書籍は、一般的には周知技術として審査段階で利用されるもので、本件審決でもそのように解されました。

つまり、本件審判では甲1文献が証拠として追加されはしたものの、甲3公報又は甲4公報を主引用発明とし、これに周知技術を組み合わせて本件発明は容易であるとする主張は、第2審判と同じであるから、本件審判は、第2審決の一事不再理効に反して請求されたものであるとして、却下されたわけです。

ところが、原告は、甲1文献を主引用発明とし、甲3公報及び甲4公報をも用いて本件発明は容易であると主張したのです。

一般的には周知技術として扱われる書籍であっても主引用文献になり得ること、引用文献の組み合わせが同じようであっても順序を入れ替えれば判断が変わりうることの参考になる判決だと思います。

Comments are closed