訴訟上の信義則(蒸し返し)平成26(行ケ)10127

1.事件の概要

本件では、原告が商標権者、被告が原告の商標登録を無効にすることを求める無効審判請求人です。原告は、第14類、第18類及び第25類という複数の商品及び役務の区分にまたがる多数の商品を指定し、ある図形の商標(本件商標)を登録しました。一方、被告は、原告の商標登録出願より約2年前に原告の商標と類似すると主張する商標(引用商標)を原告の指定商品とほぼ同一の範囲の指定商品について先に出願し、登録していました。
被告は、先ず第25類に属する商品についての本件商標の登録を無効にするべく審判請求しました。そして、特許庁は当該商品についての登録を無効とする審決(以下「別件審決」)をしました。これに対して、原告は、審決の取り消しを求めて提訴しましたが、知財高裁は原告の請求を棄却するとの判決(以下「別件判決」)をしました。原告は、上告しましたが、最高裁判所は上告棄却の決定をし、本件裁判の係属中に別件審決及び別件判決が確定しました。
被告は、別件判決言い渡し後、同判決が確定するまでの間に、第14類に属する商品及び第18類に属する商品についての本件商標の登録を無効にするべく審判請求しました。そして、特許庁は当該商品についての登録を無効とする審決(以下「本件審決」)をしました。
本件は、この審決の取り消しを求めて原告が請求した裁判で、知財高裁は原告の訴えを却下しました。

2.裁判所の判断(平成26年11月26日判決)

 1・・・
・・・、本件審決取消訴訟は、原告が、被告との間において、本件商標と引用商標とが類似するという本件審決の上記認定は誤りである旨主張して本件審決の取消しを求めるものであり、争点は、本件商標と引用商標との類否である。
2(1)本件審決取消訴訟は、本件審決の取消しを求めるものであり、別件審決の取消しを求める別件審決取消訴訟とは訴訟物が異なる。
もっとも、前記1のとおり、本件審決及び別件審決はいずれも、原被告間における本件商標の登録に係る無効審判請求事件につき、本件商標が引用商標と類似し、商標法4条1項11号に該当する旨を認定した。したがって、本件審決取消訴訟及び別件審決取消訴訟のいずれも、原被告間において、上記認定をした審決の判断の当否を争うものであり、①当事者及び②本件商標と引用商標との類否という争点を共通にしている。
(2)この点に関し、本件審決取消訴訟における原告の主張の骨子は、前述したとおり、両商標の外観につき、・・・「基本的構図」という概念を掲げ、「基本的構図」が既に出所識別力を失っているとして、それ以外の構成要素によって類否を決すべきであるというものであるのに対し、別件審決取消訴訟における原告の主張の骨子は、そのような概念を用いず、頭蓋骨及び骨片の位置、眼窩部の形状などといった両商標間の9つの相違点を個別に挙げるというものであり(乙1)、両主張の内容に差異があることは、明らかである。
しかしながら、上記差異は、本件商標と引用商標との類否について異なる観点から検討したことによるものにすぎず、いずれの主張も、両商標が類似している旨認定した審決の判断の誤りを指摘するものであることに変わりはない。そして、本件審決取消訴訟と別件審決取消訴訟との間に、各商標の外観など類否判断の前提となる主要な事実関係について相違があるとは、認められない(前述したとおり、特定の指定商品についてのみ妥当するような判断もない。)。
(3)以上によれば、本件審決取消訴訟は、実質において、本件商標と引用商標との類否判断につき、既に判決確定に至った別件審決取消訴訟を蒸し返すものといえ、訴訟上の信義則に反し、許されないものというべきである(最高裁・・・、同平成10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1147頁参照。)。
したがって、原告による本訴の提起は、不適法なものとして却下を免れない。

3.小職のコメント

原告は、本件商標と引用商標との類否につき、別件審決取消訴訟と主張の仕方を変えて両商標が互いに非類似である主張しましたが、裁判所の判断にあるように、二つの審決取消訴訟の間に、各商標の外観など類否判断の前提となる主要な事実関係について相違が無く、特定の指定商品についても事情もありません。
よって、判決は妥当です。

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